Interview

ASUKA
EO

飯尾あすか
ASUKA EO

モノトーンを基調としたカラーリングと、動植物や人などをモチーフとした有機的なイラストレーション。飯尾あすかは、ユーモラスで意志の強いイラストレーションを描く気鋭のアーティストだ。

飯尾がイラストレーションの仕事を本格的に始動させたのは大学卒業後。仕事をしながら友人伝いでさまざまな表現にトライし、作風を模索してきた。転機となったのは、グッズ販売だという。

「2015年頃から、CINRA.STOREを通じて渋谷PARCOやGINZA SIXなどでグッズの販売をしていました。CINRA.STOREでの取り扱いは、蓮を描いた作品を見てくださった担当者が『こういう方向性でグッズを作ってみませんか?』と声をかけてくださったのがきっかけです。ちょうど自分でも、そういう作風で固めていこうと思っていた時期だったし、他の人から『この作風がいいと思いますよ』と言っていただいた初めての機会だったので、そのおかげで作風が伸びたと思います」

CINRA.STOREで販売されていた丸キャンバスの小品。その他、スマートフォンケースなども制作・販売。

「あとは、ウィンドウペイントもたくさんしていました。ストリートアートが好きなので、街の中で合法的に描けるものはなんだろうと考えたときに『ウィンドウペイントがあるじゃん!』と思って。どこかでやらせてもらえないかなと友達にポロッと話したら、『鎌倉のお店だったら描かせてくれるよ! 一緒に行こう』という話になって、ポートフォリオを持って鎌倉の店を回ったんです。最初の2店舗ほどは無償で描かせてもらったんですが、以降は口コミで仕事としてやるようになりました。

グッズもウインドウペイントも、私は本当に周りの人に助けられてるなと思います。やはり作品を客観的に見ないとわからないこともあると思うんです。

その時期は、自分がどういう作品を描きたいのかを探るために、とりあえずやりたいことを全部やっていました。ウィンドウペイントも仕事としてやろうと思ってなかったからフットワーク軽くできたと思うんです。その結果、ウインドウペイントの仕事を紹介してくださる施工会社に拾っていただいて、一緒にお仕事もさせていただきました。
それまでは、絵柄が固まらないとあまり『仕事ください!』と営業できないと思っていたんです。けれど、この頃からだんだんと自信がつきはじめました」

飯尾が手掛けたウィンドウペイント(鎌倉・HOUSE YUIGAHAMA, 2017)

飯尾の作品の特徴であるモノトーンの色合いや動植物などのモチーフも、ちょうどこの時期に固まってきたのだとか。

「この時期は植物だけでやっていくと思っていました。育った家は、庭に植物が鬱蒼としていて。母に植物の名前を教えられて育ってきてた影響もあるんだと思います。

トーンをモノクロに絞ってからは、モノクロでも勝てるような、幾何学的にならないモチーフを考えて植物に行き着きました。あと、CINRAの方がいいと言ってくださったのが蓮の作品だったというのもあります。
モノクロでやろうと思ったきっかけはいっぱいあるのですが、フィンランドの影響が強いんです。フィンランドのデザインは植物モチーフのものが多いですよね。あと、フィンランドって日本では“ほっこり”という印象で語られがちだと思うんのですが、私がフィンランドに行って感じたのはどちらかというと“クール・かっこいい”ということ。けれど、どこかかわいげがあって温かみを感じる。強い色なだけに難しいですが、“中間”のモノクロが存在していることがすごく新鮮で響いたんです。

モノクロは、やはり質感を大事にしなきゃいけない色だとも思います。ちょっとトーンを混ぜてみるとガラッと作品の雰囲気が変わったりするので、いまもベタッとした作品にならないように、地味になりすぎないように気をつけています」

アジアのクリエイターのためのトーナメント「Ubisum by Ubies」本戦用に制作した作品「Hanafuda」(2020)

試行錯誤しながら自身の作風をアップデートさせていった飯尾。転機となったのは、2年間滞在したロンドンでの生活だった。

「イギリスは、日本に比べてスーパーなどで並んでいるもののデザインが洗練されていてシンプル。日本だと注意書きなどがいろいろ書いてあるけれど、それが全然なくてただロゴタイプのみとか。そういうものとかを見てると『シンプルなのってやっぱりいいな。心が疲れないな』という気持ちになったんです。漠然といやだと思ってたことが、海外の生活ではっきりとわかりました。そして、自分が作るものはシンプルにしていきたいと思ったんです。
逆に、日本のよさがわかることもすごくありました。例えば、家紋のデザインなど、日本のミニマルなデザインも作品に影響していると思います」

インプットすることでさまざまなことが繋がり、整理されていったロンドンでの生活。海外のコンペティションへの出品も自信につながったという。

「私が持ってる情報が少なかったからということもありますが、それまでは私がやりたいようなデザインってあまりにもシンプルすぎて、日本のイラスト・アートコンペに出品しても結果が残るような感覚が全然なかったんです。けれど、ロンドンでの生活にも慣れて、英語の情報を日常的に読みはじめると、海外だと手応えを得られそうなコンペがあることに気づいたんです。
実際に結構手応えはありました。やはり不可抗力で他の出品作品に影響されることもあると思うんです。周りの作品にセンスを磨いてもらえるというか。コンペ用に描いた作品は、いまでもすごく気に入ってる作品になっています」

ロサンゼルスを拠点としたホームプロダクトブランド・Slowdown Studioによるアートコンペ出品作品(2019)

ロンドンで作風と自信を得て帰国。自身が発信しているInstagramやWebサイト経由で問合せがくるなど、その手応えは現実のものとなっている。

「ちょっと前まですごいモックアップを作ることにはまっていて。イラスト単体だとシンプルすぎる作品でも、実際プロダクトにしてみるといいこともある。なので、製品ぽく見せることで、イラストの魅力を伝えることができる作品があると実感しています。
あとは、普通にイラストを描くのも好きなのですが、写真の上にイラストレーションを描くこともおもしろい。やはり、ウィンドウペイントのように、もともとそこにある風景やものと自分の絵が一緒になる作品が好きなんです。今後はそういう作品作りもやっていきたいですね。
そして、やはり私の絵柄が好きだって思ってくださる方と仕事したいし、そうすることによって消耗せずにイラストレーターとして長く活動していきたいと思っています」

写真にミニマムなイラストレーションをのせたプライベートワーク

illustrator / Designer
ASUKA EO
飯尾あすか

イラストレーター・デザイナー。 慶應義塾大学在学中からイラストレーターとしての活動を開始。 ウィンドウペイント、ロゴ、パターンデザインなど、海外のアーティストから影響を受けた繊細かつ力強いモノトーンの作品は、国内外で評価を得ている。 2017年渡英。2019年に帰国した後、東京を中心に活動中。

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